最近では、TikTokなどのSNSを始めにYoutube動画やテレビCMなど様々な場所で見かけるようになった「ストリートダンス」。
近所や駅の近くで踊っているダンサーをよく見るという方もいるかもしれません。
ストリートダンスを踊っているダンサーのことを一般に「ストリートダンサー」と呼びますが、そんなストリートダンサーは一体いつからいたのでしょうか?
今回は、現役のストリートダンサーで大学の論文でストリートダンスについての研究を発表し優秀プロジェクトに選出された経験もある筆者が、ストリートダンスの歴史について深掘りながら初心者の方にも分かりやすくご紹介していきます。
ダンサーの方は自身のダンスライフの参考にしながら、そうでない方もダンスの知識・教養を深めるための一歩として、本記事を自由に役立てていただければ幸いです。
ストリートダンスの起源
ストリートダンスの歴史はとても深く、その起源は1920年代頃に「ジャズ」から生まれたのではないかとする説があります。
相倉久人氏が2007年に発売した「新書で入門 ジャズの歴史」という書籍によると、アメリカのサウスカロライナ州チャールストンという都市で「チャールストン」と呼ばれるステップが生まれ、それがストリートダンスの起源の一つだと言われています。
両ヒザをつけたまま、つま先を交互に跳ね上げるステップの踊り。アメリカのサウスカロライナ州チャールストン市が発祥のため「チャールストン」と名づけられる。
1923年「Charleston, South Carolina」(ジェームス・P・ジョンソン作曲)で最初に踊られた。
ジャズダンスの歴史(1920年代前半)チャールストンとタップ
この動画の冒頭で何度も足を交互にしてステップをしているのが「チャールストン」です。
チャールストンは黒人の音楽文化などを主体として生まれたため、主に黒人の代表的な音楽であるジャズの演奏で踊られていました。
このチャールストンと呼ばれるステップは、映画や舞台などで頻繁に使われたり社交ダンスに使われるなどして流行し注目される一方で、当時のアメリカなどでは人種差別の風潮があり白人主体の音楽業界であったためからこうした黒人文化への世間の態度は厳しいものでした。
ストリートダンスの発祥
ストリートダンスの発祥は1960~70年代頃のことで、この頃にストリートダンスという概念が出来始めたと言われています。
1960年代頃に黒人のミュージシャン達による「ソウルミュージック」と呼ばれる音楽が、今まで白人文化がメインであった音楽業界に変化をもたらしました。
1965年にシカゴのテレビ局WCIU-TVによって「SOUL TRAIN」という黒人向けの番組が放送されるようになり、1971年には「ドン・コーネリアス」という現在では世界的に有名なプロデューサーが司会を務め、全米で放送されるようになりました。
「SOUL TRAIN」は1971年の放送開始から2006年まで放送され全米で話題となり、番組内では黒人のアーティストやダンサーが多く出演していました。
この番組や流行に触発されて制作された映画などを見ていた若者達が、番組内・映画内のダンスや音楽に影響されて街中でダンスを踊るようになっていったのがストリートダンスの発祥と言われています。
番組にはオーディションがあり、オーディションに合格して出演するためにアメリカの若者達が自分なりのスタイルや表現を磨いていった結果様々なダンスが生まれるきっかけとなっていきました。
これらの音楽業界を取り巻く変化は、1954年から1968年ごろに行われたキング牧師などが活躍したことでも知られる「公民権運動」の影響も少なからず受けています。
ストリートダンスの誕生と普及
ソウルダンスの誕生
黒人音楽が流行している頃、黒人のダンサー達の間で1950~1960年代ごろにかけて既存のゴスペルやブルースなどの音楽から派生した「ソウル・ミュージック」と呼ばれる音楽に合わせて、チャールストンなどを参考にしたステップをメインとした「ソウルダンス(soul)」が自然に生まれました。
ソウルダンスというスタイルやジャンルは、当時は明確には存在せず、ソウル・ミュージックに合わせて踊るダンスやその時代に躍られたダンスが総称してソウル・ダンスと呼ばれています。
このソウルダンスは先ほどご紹介した「SOUL TRAIN」によってアメリカ中に広まり、後に大きく発展するストリートダンスの基礎になるなどストリートダンスが広く親しまれる大きなきっかけとなりました。
ロックダンスの誕生
ストリートダンスに対する「SOUL TRAIN」の影響はとても大きく、ストリートダンスで最も古いスタイル・ジャンルと言われる「ロックダンス(Lock, Locking, Lockin’)」もこの「SOUL TRAIN」がきっかけで全米に広まることとなりました。
ロックダンスは、ドン・キャンベルが「ソウルダンス」の”ファンキーチキン”という動きから生み出したもので、当時この動きが苦手だった彼がぎこちなくファンキーチキンをするのをきっかけにロックダンスの基本ができました。
そこから様々な他のスタイルなどを取り込みながら現在に近いロックダンス形となっていき、彼は1970年頃にロックダンスチーム「The Lockers」を結成しました。
派生するストリートダンス
ポップダンスの誕生
ここまで説明してきた黒人音楽の流行やロックダンスの誕生などをきっかけに、アメリカでは様々なジャンルのダンスや文化が生まれることになりました。
カリフォルニアではフレズノ出身の「ブーガル・サム(Boogaloo Sam)」と「ポッピン・ピート(Popin’ Pete)」という二人の兄弟が、ロックダンスやロボットダンスの動きを元に「ポップダンス(pop, popping, poppin’)」を生み出しました。
彼らはその後、従兄弟の「スキーター・ラビット(Skeeter Rabbit)」を誘って「Electric Boogaloos」と呼ばれるポップダンスチームを結成しました。
このポップダンスはSOUL TRAINで紹介され有名となり映画にも登場するなど大きな話題を呼び、不思議な動きが特徴的な「アニメーションダンス」が生まれるきっかけにもなりました。
ワックダンスの誕生
1970年代頃にロサンゼルスのゲイクラブで新しいダンスが生まれました。
当時のゲイダンサー達は、ジャズやバレエなどのダンスにSOUL TRAINで流行していたソウルダンスの動きなどを取り入れながら、古い女性スターたちのポーズを真似してポージングをしていくようなダンスをしており、次第に腕を体に巻きつける動きもするようになっていきました。
それらのダンスは「PUNKING」または「WAACK, WAACKING」と呼ばれるようになり、Tyron Proctor(タイロン・プロクター)というダンサーが、当時のダンサー達とこのダンスを広める為に「The Outrageous Waack Dancers」というチームを結成しました。
「The Outrageous Waack Dancers」が「SOUL TRAIN」で取り上げられたことや、Diana Ross(ダイアナ・ロス)が当時のダンサー達を自身のショーのバックダンサーとし起用したりしたことなどから、このPUNKING・WAACKが広く有名になり一般的に親しまれるようになりました。
ヒップホップ文化の誕生
1970年代頃にアメリカの東海岸では、ここまで紹介したダンスの文化とはまた違ったヒップホップ(HipHop)と呼ばれる文化が誕生していました。
アメリカニューヨーク州のサウスブロンクス地区では当時、「ブロック・パーティー」と呼ばれる公園などの街中で音楽を流しながら行われるパーティーが流行していました。
当時はブロック・パーティーでレコード・プレーヤーを使ってディスコやソウルなどの様々な音楽を流しており、次第に「クール・ハーク」などのDJによって、曲の間奏部分・ドラムの演奏部分をループさせる「ブレイクビーツ」と呼ばれる技術が生まれました。
このブレイクビーツの流行をきっかけにブレイクビーツに合わせてダンスを踊る「ブレイクダンス(Break, breakin’, b-boying, b-girling)」やブレイクビーツに合わせてMCをする「ラップ」が生まれることになりました。
ストリートダンスの歴史が学べる本
続いて、ストリートダンスの歴史について学ぶことができるおすすめ本をご紹介します。
ストリートダンスやストリートカルチャーについての書籍はとても少なく出版されてもすぐに絶版になったりすることが多いため、新品はほぼなく中古品が当初の販売価格より高価な値段で取引されている場合がほとんどです。
近所の中古本を取り扱っているお店でもなかなか見つかることはないので、ネット上で販売されていたらすぐ買うか予算が足りなければ友人とシェアすることをおすすめします。
ルーツ・オブ・ストリート・ダンス―生きる伝説・OHJIが語るストリートダンスの現在・過去・未来
「ダンス界の大御所」「東京ダンスシーンの巨星」などと呼ばれ、ダンスチーム「JUNGLE」のリーダーやスーパーユニット「Hydra」で活躍したOHJI氏が日本のストリートダンスシーンについて書いた本。
ディスコブーム・ブレイクダンスブーム・ニュージャックスイングなどのダンスシーンの変遷について描かれており、「BE-BOP CREW」のRICKY氏や「STRUT」のKAZU氏、「TRF」のSAM氏も作中でダンスシーンやOHJI氏について語っている。
2001年に刊行され、数年後にすぐ絶版となったため現在あまり出回っていないことに加えて年々価格が上がっているため、見つけたらラッキーというレベル。
ヒップホップ・ジェネレーション[新装版]
「ヒップホップという文化について知りたい」「ストリート・カルチャーについて学びたい」という方にお勧めなヒップホップの歴史書。
ヒップホップの形成・ヒップホップがアメリカ社会に与えた影響・黎明期の物語など、ヒップホップの歴史について時代背景や物語も踏まえて一気に見ることができる。
有名なブロンクスのギャングについての物語やブレイクダンス誕生初期のヒップホップシーンの動向などを学ぶことができる日本語書籍なので、かなり貴重でこちらもあまり出回っているところを見ない。
ダンスの時代
ダンサーもダンサーでない方も楽しめるダンスの歴史や変遷について書かれた本で出版されたのは2019年とかなり新しい。
ストリートダンスに拘らず文化的・歴史的な観点からダンスをというものについて研究・考察されており、現代のダンスとはどういったものか、概念的な話が好きな方にお勧めな本。
黒く踊れ!―ストリートダンサーズ列伝
日本という国でまだまだソウルが広く知られていなかった時代から、日本のソウルシーンを支えて来た江守藹氏によるソウルの歴史や日本のダンス・ソウルシーンについて書かれた本書。
日本やアメリカのブラックカルチャーについて記されており、60年代からの全ての歴史が綴られています。ブラックカルチャーについての本はとても少ないため貴重な一冊。
日本のヒップホップ―文化グローバリゼーションの〈現場〉
アメリカのヒップホップ文化が日本語に与えた影響について、日本語ラップ・ファン文化・音楽業界という視点から描いた本。
1990-2000年代の日本のヒップホップをメインに述べられており、「日本語ラップ」が中心テーマの本だがヒップホップカルチャーについても学ぶことができる。
新書で入門―ジャズの歴史(新潮新書)
ジャズ評論界の第一人者、相倉久人氏によるジャズ入門書の決定版。ストリートダンスの起源であるジャズについて、その歴史や変遷を分かりやすく学ぶことができる。歴史好きにもおすすめの本。
ストリートダンスの歴史が学べる論文
最後に、ストリートダンスの歴史について学ぶことができる論文をいくつかご紹介したいと思います。
今回は読者の皆様が参考にすることができるよう、ネットに公開されている論文のみをご紹介します。
(筆者自身も学生時代にストリートダンスの評価方法について論文を執筆したのですが、ネットに公開されていないのでご紹介できず残念です…。)
その他のストリートダンスに関する論文
【まとめ】ストリートダンスの歴史は奥深い
いかがでしたでしょうか。今回は、ストリートダンスの歴史についてご紹介しました。
ストリートダンスの文化については、記録が残っているものが少なく発祥や起源については諸説あります。今回はその中でもメジャーなものや最低限押さえておきたいポイントなどをできるだけ簡潔にご紹介しました。
今後、それぞれのダンスのスタイルやジャンルについても歴史などを調査して記事にしていきたいと思いますので、是非ご覧いただければと思います。
最後までご覧いただき、ありがとうございました
【参考文献・書籍・記事】